KOGISO SHINSUKE

毎日がエブリディ

KOGISO SHINSUKE

諸行無常

1.21, 2014

m16

 

松田君(仮)のうちは貧乏だった。

中学生のときに友達だった松田君。いつも同じお下がりのジャージを着てて、古い団地に住んでた松田君。

彼は明るくておもしろくて運動神経が良くて人気モノだった。家がほどほどに近所だったのでたまに一緒に遊んでた。

松田君ちに遊びに行くと決まって出されたのはレモン水だった。水道水にレモンを入れたそれは爽やかで美味かった。

台所でレモンを輪切りにする松田君が妙に大人っぽく見えた。

 

そのころ僕らの間ではサバイバルゲームが流行ってた。モデルガンを手に山で行う遊びだ。

2チームに分かれて敵チームを狙い打つ。そんな遊び。

 

松田君はモデルガンを持ってなかった。でもどこからから借りてきたり、金持ちの子が一緒に遊んでるときには

余ったモデルガンを借りて参加していた。どこからも借りれない時は武器なしで参加。

僕らは松田君が体に触れたら撃たれた事と同じって特別ルール「松田タッチ」を採用した。

素早い松田君の「松田タッチ」は近距離戦で威力を発揮。敵チームに恐れられた。

 

僕もサバイバルゲームに夢中になり、翌年のお正月には貰ったお年玉をつぎ込んで新しいモデルガンを1丁買った。

当時¥12000もした憧れのM16アサルトライフル。僕の宝物になった。

 

その日、僕は家の用事でサバイバルゲームの誘いを断った。そしたら家に松田君から電話があった。

「M16貸してくれへん?」っていう。

僕はまだあんまり実戦で使っていない宝物を人に貸すことを躊躇した。

「M16はちょっと・・前使ってたやつならイイよ。」

「お願いやて!貸して。一生のお願い!頼むわ!絶対壊さへんから!」

と食い下がって来た。

松田君からこんなに頼まれる事も今までなかった事だし、一生のお願いとかいうので僕は貸すことにした。

 

「ありがと!!夕方に返しにくるから、ほんとありがとう!」

うれしさテンションMAXでお礼を言われ、僕は躊躇した事を後悔した。初めからこころよく貸せば良かった。

まだまだ小さいな俺って思ったリアル中2だ。

 

僕が用事を済ませ家に帰ると雨が降り始めた。もう辺りは暗くなり始めているのに松田君はまだ来ない。

部屋で漫画を読んでると、部屋のガラス窓を外からコンコンッて叩く音がする。

窓を開けるとそこにはびしょ濡れになった松田君。そして何故か号泣していた。

 

「ぐぅっえっぐぐっえ、ごぉぇええっんねぇえっ・・・えっエッェッ・・」

 

ビックリした。中2とはいえ男の号泣。昼間のテンションとえらい違う。

松田君はものすっご小さい声で言った。

「M16壊した・・」

「え?」

「M・・16・壊した・・」

 

2回言ったので間違いない。やりやがったよ松田君。

松田君は後ろ手に持っていたM16をそっと差し出した。

ぱっと見たとこ大丈夫に見える。キズとかついたんかなと思って凝視してると松田君がもひとつ差し出した。

銃身だった。銃の先っぽだわ。よくよく見るとポッキリ折れてるわ。大事なとこポッキリですわ。

 

僕は呆然とM16と折れた銃身を手に立ちつくしてた。松田君はまだ号泣中だ。

僕は考えた。これはどうする?弁償してもらうのか松田君に?家が貧乏で号泣してる松田君に?

空手やる前の長渕みたいな恐いお父さんを持つ松田君に?

 

ムリだった。家庭環境を想像し気を使う事ができるお年頃、とても弁償しろとは言えなかった。

めったにみせないホトケの心をむき出しにして僕は言った。

 

「いいよ・・。形あるものはいつか壊れるから」

 

中二病全開で言い切り、僕は松田君を許したけど「一生のお願い」を多用する人を信じなくなった。

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